LWL onlineにて町田瑞穂ドロテアの「住まいの詩学」が公開されました

第2回のテーマは「名作家具の再発見と、現代的コーディネート」

名作家具には、各時代の思想が息づいている

近年、改めて“名作家具”が注目を集めています。瑞穂さんはその理由を、単なるリバイバルブームではなく、「現代の価値観の変化に呼応して、さまざまな時代の思想が再発見されている」と語ります。その背景にあるのは、住空間に息づく“ストーリー性”。

「名作家具には、その時代が模索してきたデザインの集大成が宿っています。バウハウスの機能主義、北欧モダンの“人間のための有機的デザイン”、そして70年代ポストモダンでは様式や装飾の再構築と表現の時代になっていました」(以下、太字カッコ内の言葉は瑞穂さん)

マルセル・ブロイヤー「ワシリー・チェア」

名作家具として知られる、バウハウスを代表するマルセル・ブロイヤー「ワシリー・チェア」

「これら、名作家具がつくられた各時代の文化的背景やストーリーが、現代の人の価値観と響き合うことで、その価値が再発見されているのだと思いますね。名作家具を所有するということは、“その家具が生まれた時代そのものを愛でる”ことにも近いのです」 

名作家具というと、デザイン史に出てくる歴史的鑑賞物のような印象もありますが、瑞穂さんの言葉に触れていると、むしろ今も人の暮らしの中にあってこそ意味をもつ存在だと気づかされます。 

「もちろん、単に“有名だから”とか、“見た目がカッコ良いから”という理由で名作家具を選んでも良いんですよ。おうちのなかにデザイン家具が入ると、それだけで空間が華やぎます。

でも、名作家具が生まれた背景を知り、そのデザインが背負う時代性も含めて自分の暮らしに迎え入れていることに気づくと、グッと深みが増しませんか」

家具同士に会話させる距離感

では、そんな名作家具を自宅に配置するには、どんなことに気をつければ良いのでしょうか。瑞穂さんは、インテリアコーディネーターとして家具に触れるとき、特に居住者とのマッチングを重要視すると言います。インテリアの動線を見るのはもちろん、その人の生活リズムや美意識まで読み取って、そこに配置する家具を提案しています。

「やはり、家具は生活に溶け込んでほしいのです。どのお客さまも、まずインテリア全体のテーマを設定し、その象徴になるような家具を合わせていきます。テーマに合うものを選別する中で、現代の最新デザインの家具がぴったりな場合もあれば、アンティークの名作家具がしっくり来るときもあります」

家具を選ぶとき、私たちはつい“どれを置くか”ばかりに気を取られてしまいますが、瑞穂さんは、家具と家具のあいだに生まれる“関係”こそが空間の質を決めると語ります。

「家具も小物も、ただ置くだけではごちゃごちゃしてしまいます。それぞれが適度な距離感を保ちながら、まるで会話をするように配置することで、空間が整います」

また、その空間の主役の家具を決めることも重要だと言います。

「たとえば名作家具の場合、少し引いて眺めたときに本来の表情が立ち上がってきます。余裕のない空間に詰め込んでしまうと、せっかくの造形が生きません。家具の関係性をしっかり演出してあげることが大事です」

家具同士の距離、そこに住む人の視線の流れ、配置する小物のグルーピング……これらの要素を整えることで、空間は“静かな対話”を始めるのです。

(LWL online より引用)

町田瑞穂ドロテア

一級建築士・統括デザイナー・ストレスアナリスト

町田瑞穂ドロテア

スイス生まれ。武蔵工業大学工学部建築学科卒業(現:東京都市大学)。日本の住宅メーカーをはじめ、米国の設計事務所RTKL International ltd.にて勤務。 2000年の帰国後より、町田ひろ子アカデミーにて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。英国ロンドンにあるKLC School of Designインテリアデザインとインテリアデコレーションのディプロマ(資格)を取得。海外の経験を活かし、日本の住空間にあったデザイン&コーディネートを独自の視点でデザイン提案。現在は、nat株式会社にてCDO(最高デザイン責任者)として、空間設計事業及びインテリアデザインブランド「青山スタイル」を統括し、提供している。

詳細はLWL onlineをご覧ください。

LWL online ホームページ